ふー・・・振り返ればあっという間でした。
実際のところは3巻プラス1巻構成。最後の一巻はつながっていますが書き方としては作者自身が言っているとおりまず3巻までが一続きのお話。4巻目は3巻までのお話をたたき台にした一つのスリラー的なお話となっております。
なんでこの本を読み始めたかと言うと。
このシリーズの3巻を元にしたアニメが始まって、あまりにもへんちくりんな題だったので1話を見てみたんですよ。そしたらすごい消化不良で。
小説原作のアニメ作品が消化不良になる場合、ものすごい確率で元の小説が魅力的な場面が多いんです。アニメはそもそも特定のシーンをピックアップしてキャラクターを際立たせながら勢いでこちらを巻き込んでいくのが正当な手法なので、小説のように状況をゆっくりと説明する暇が全く無いんですよね。
1時間のドラマならまだしも、22分のアニメで序盤からワンシーンを深く掘り下げて描くと見ているほうが引くので、たいていのアニメは最初の3話はそれぞれのキャラクターがどのような性格であるか、イメージをこちらに植え付けるように構成します。
だからアニメのほうも今後面白くなる可能性は十分に残っています。
それは置いといて。
この本の話題は今もっともホットな「規制」に関する問題です。昨日もインターネット規制法という、「有害なサイト」を規制するという非常にあいまいな概念をもった法律に対して、ヤフーなどの大手のプロバイダーが反対意見を出しました。
「有害」という概念が非常に危ないのは、先の大相撲での内館牧子と朝青竜に関する議論で皆さんも大いに見たことと思います。何をもって有害とするかは、結局「個人の主観」によることが多いのです。
たいていの人はこの法律がポルノサイトの規制のためだと思われているようですが、実際のところ困ったらこの法律はどのようにも解釈ができます。
まあ、僕のブログごときつぶれても世間に対して何か問題があるわけでもありませんが、もし僕のブログが「有害」であると指定されたら、このブログは閉鎖されるんですよ。理由なんていくらでもつきます。「偏った思想を広めている」とかね。こう言っちゃなんだが一人の人間の考えがほかの人にとって偏っているかどうかなど、主観で決められることであり、つまりやろうと思えば日本のブログすべては「国家にとって」有害である、という風とることもできるんです。
そりゃそうだろう。たとえば近所の道路が壊れていて、そのことをブログで書いたから「国の批判」をした、という屁理屈など、僕でも思いつくのだからお偉いさんはいつでもやりたいだろう。
で、この小説は規制がインターネットではなく「書籍」のレベルで行われ、世の中で書籍を守ることができる団体が「図書隊」という架空の団体だけになってしまった、という設定のもとに、本を命の代えても守る人々を描いたハートフルラブコメディー(まあ、表面上そうなだけですが。でも、この本ラブコメの部分がないと本当に救いのない話が多い。この危ういバランスがライトノベルのハードカバー、という今まであまりなかった傾向の出版形式を生んでおり、そういう意味では確実に新しいジャンルを切り開いた人のうちに入る。)です。
ライトノヴェルと一口に言いますが、これ、ちっともライトじゃないです。ライトに読むこともできますが、集中力を切らさずに一文も読み漏らさないで読むと、ケン・フォレットと似たような印象を味わえます。あ、あくまで英語で読んだ時のね?邦訳は硬い。
日本という国の特殊性は、それまでの国の政策が180度反転することがいつでもありえるということであり、たとえば「非核→核武装」「非戦→軍国主義」「表現の自由→全規制」という構図を考えると「ああ、あるかもね」と言えてしまうという意味では世界でも唯一の国なのですが、その辺のヒステリズムを非常にうまく使って書いています。
ある意味、日本に居続けて日本にしかいなかったからこそ書けた、かつてオタクだった人でしか書けない本となっています。
最近思うことがあります。
どんなオタクも30を超えればタダの人。
つまり、それが音楽であろうがゲームであろうがマンガであろうが小説であろうが、30を超えたら自分の中にシステムを見つけなければ作品を作ることができなくなるんですよ。
だからかつてオタクだったとしても、30超えちゃった時点でまだ作品を紡ぎだしている人は、もうオタクの次元を超えた何かを自分の中で手に入れているのです。
モーツァルトですら、30あたりからの作品は、それまでと全く違った「意志をもった」作品となります。
この人は、そうしたオタクの進化系としては、今最先端を行っているのではないでしょうか。
感動は、ないです。
でも、非常に良質の読み物であり、スピード感と、僕としては近年の若手作家にはほとんど感じない「同世代感」を感じるという意味では、親しい友人が書いた本のようであり、個人的にはすごく好きですね。
本好き、本マニアのにおいを隠さない作家です。活字が大好き、という人に、ぜひ、お勧め。
ぼくは、応援しちゃうなあ・・・たぶん、宮部みゆきも同世代だったら応援していたんだろう。つまり、僕が宮部さんに感じている違和感は、おそらく世代間の違い。でも、上遠野浩平は読めるんだよなあ・・・これは多分、同性だからか。それとも今のぼくが読めば、多少は違和感は消えているかもしれないね。
本が読めるようになると、世界がずいぶん違って見えるようになります。不思議ですねえ・・・